「まずは食事と運動で」の次に出せる手はあるか|開業医の生活習慣病外来

「まずは食事と運動で」の次に出せる手はあるか|開業医の生活習慣病外来

「まずは食事と運動から」。生活習慣病の外来で最初に伝えるこの方針は、どのガイドラインでも治療の基本に置かれています。問題は、その次に出せる手が少ないことです。

近年、肥満症そのものを効能とする注射薬が登場しました。2型糖尿病に用いるGLP-1受容体作動薬とは別の製剤で、セマグルチド(GLP-1受容体作動薬)とチルゼパチド(GIP/GLP-1受容体作動薬)の2剤があります。ただし対象はBMIと合併症の条件を満たす患者さんに限られ、処方する施設にも要件があるため、一般的な内科クリニックでは扱えないことも少なくありません。

一方で、生活習慣病管理料では6か月に1回以上の血液検査で経過を確認することが要件になり、特定保健指導では腹囲2cm・体重2kgの減少が評価の中心に入っています。

打てる手は限られるが、それでも数字は問われる。こうした環境でクリニックは何ができるのか、食事・運動指導の現状から整理します。

外来の食事・運動指導と、生活習慣病管理料の見直し

生活習慣病の外来では、食事・運動指導はおおむね次のような形で行われています。

  • 口頭での指導:診察時の会話に織り込む。最も一般的で、最も記録に残りにくい

  • 紙媒体の配布:食事記録表、カロリー早見表、運動メニューのパンフレット

  • 管理栄養士による栄養食事指導:外来栄養食事指導料の算定対象。ただし管理栄養士を確保できているクリニックは限られる

  • 運動処方:運動器の状態や心血管リスクを踏まえた具体的な処方。実施できる施設はさらに限られる

  • アプリ・ウェアラブルの活用:歩数や食事記録を患者さん自身に入力させ、来院時に確認する

多くのクリニックでは、上の2つが中心にならざるを得ません。1人あたりの診察時間、スタッフ体制、そして指導に対する評価の問題があるためです。

そこに、この2年ほどで制度側の変化が重なりました。

2024年度の診療報酬改定で、糖尿病・脂質異常症・高血圧症が特定疾患療養管理料から外れ、生活習慣病管理料へ移りました。栄養・運動・休養・喫煙・服薬などを総合的に管理することを前提とした評価で、療養計画書の作成・交付が算定要件に入っています。

2026年度の改定では、療養計画書の患者さん署名が廃止された一方、生活習慣病管理料(I)に原則6か月に1回以上の血液検査などが要件として明記されました。手続きは軽くなりましたが、指導した結果として検査値がどう動いたかを定期的に確認する構造は、むしろ強くなっています。

第4期特定保健指導のアウトカム評価で何が変わったか

同じ方向の変化は、健診・保健指導の側でも起きています。

2024年度から始まった第4期特定健診・特定保健指導では、これまでの面接回数や支援時間に応じた評価に、成果そのものを評価するアウトカム評価が加わりました。配点は次のとおりです。


       【評価項目】                          【ポイント】

腹囲2cm・体重2kgの減少                             180pt

腹囲1cm・体重1kgの減少                                 20pt

喫煙習慣の改善(禁煙の継続)※1回まで           :30pt

行動変容(食習慣・運動習慣・休養習慣など)※各1回まで   :各20pt

 

プロセス評価と合わせて180pt以上で、特定保健指導を実施したとみなされます。プロセス評価がなくなったわけではなく、そこに成果を見る仕組みが重なった形です。腹囲2cm・体重2kg減が出れば、支援の量にかかわらずそれだけで180ptに届きます。つまり「結果が出れば、そこに至る過程は問わない」という考え方が加わったとも言えるでしょう。

診療報酬でも健診でも、評価されるのは検査値や腹囲・体重といった数字に寄ってきている。それが2024年度以降の流れです。

2023年度の特定健診実施率は59.9%でしたが、特定保健指導の実施率は27.6%にとどまります。数字での結果が求められる一方で、そもそも指導を受け終える人が3割に届いていないのが現状です。

指導が効く患者さん、効かない患者さんを分けるもの

では、指導が届かない患者さんは「意志が弱い」のでしょうか。

令和元年の国民健康・栄養調査を見ると、そう単純ではないことがわかります。

食習慣の改善について、「関心がない」と答えた男性は16.5%、「関心はあるが改善するつもりはない」が24.6%。合わせておよそ4割が、動き出す手前で止まっています。運動習慣も同じ傾向で、男性ではこの2つの合計が約38%です。

注目したいのは、最も多い層が「関心がない」ではなく「関心はあるが、改善するつもりはない」だという点です。

行動変容ステージモデルに当てはめると、この2つはどちらも無関心期(前熟考期)にあたります。関心の有無にかかわらず、6か月以内に行動を変える意思がない段階だからです。標準的な健診・保健指導プログラムでも、無関心期・関心期の対象者には個別面接を中心とした支援を継続することが求められており、一律の指導では動きにくいことが前提に置かれています。

多くの患者さんは、指導の内容を理解しているし、必要性もわかっている。それでも動かない。ここにあるのは知識の不足ではなく、わかっていることと実際にやることのあいだの隔たりです。

背景として、次のような要因が指摘されています。

  • 時間の制約:交代勤務や長時間労働で、決まった時間に食事を摂れない

  • 食環境:外食や中食への依存、単身世帯、家族の食事に合わせる必要がある

  • 成果が見えるまでの時間差:数か月続けて、ようやく数値が動く。その間、手応えが得られない

  • 通院時にしか意識が続かない:診察室では前向きになるが、日常に戻ると薄れる

  • 併存疾患や整形外科的な制限:膝や腰の痛みで、運動指導そのものが実行できない

対象となる人の数も少なくありません。令和6年の国民健康・栄養調査では、糖尿病が強く疑われる人が約1,100万人と推計され、運動習慣のある人(20歳以上)は34.6%にとどまっています。

対象は多く、行動は変わりにくい。これが生活習慣病外来の実態です。

保険診療の枠内で、いま取れる手

指導が届きにくい患者さんに対して、保険診療の枠内でできることが何もないわけではありません。実際に算定できる項目を並べておきます。

まず、管理栄養士による栄養食事指導です。自院に管理栄養士がいなくても、外来栄養食事指導料の「2」であれば、他の医療機関や都道府県栄養士会が運営する栄養ケア・ステーションに所属する管理栄養士に依頼して算定できます(初回250点、2回目以降190点)。算定できるのは診療所に限られます。2026年度の改定では「追加的な指導」(45点)が新設され、初回指導のあとに電話や情報通信機器で行うフォローも評価の対象になりました。(「2」の場合45点、自院の管理栄養士による「1」は50点いずれも月1回)。


高血圧であれば、治療補助アプリという選択肢があります。プログラム医療機器等指導管理料は90点、初回に導入期加算50点。2026年度からは情報通信機器を用いた場合の78点が加わり、生活習慣病管理料(I)に加えて(II)を算定している場合も対象になりました。ただし対象は成人の本態性高血圧症に限られ、施設基準の届出が必要で、算定できるのは初回の使用月から6か月までです。

糖尿病で腎症が進んでいる患者さんには、糖尿病透析予防指導管理料(350点、月1回)があります。ただし算定には、糖尿病の指導経験5年以上の医師、一定の経験と研修を満たす看護師または保健師、栄養指導経験5年以上の管理栄養士による透析予防診療チームという施設基準があり、届出のハードルは高めです。

一方、家庭血圧の遠隔モニタリングには、現時点で診療報酬上の評価がありません。遠隔モニタリング加算が算定できるのはペースメーカー、在宅酸素療法、在宅持続陽圧呼吸療法(CPAP)などで、高血圧の家庭血圧は対象外です。自己測定と目標設定は、生活習慣病管理料の療養計画書のなかで扱う形になります。

並べてみると、いずれも制約があることがわかります。栄養指導は外部に委託できても診療との連携をどう設計するかが残り、アプリは6か月で終わり、透析予防はチームを組まないと届出できない。そして共通しているのは、どれも次の受診までの3か月を埋めきるものではないということです。

【監修医コメント|五藤良将 先生】

「外来で『わかってはいるんですが』とおっしゃる患者さんに、毎日お会いします。話を聞くと、やる気の問題ではなく、生活の中に指導を入れる隙間がないことがほとんどです。夜勤明けで食事の時間が定まらない、単身赴任で自炊ができない、膝が痛くて歩けない。その条件を無視した指導は、診察室でうなずかれて終わります。私が変えたのは、指導の強さではなく細かさです。『間食を減らしましょう』ではなく『夕食後のアイスを週3回までに』。目標を一つに絞り、次回はできたかどうかだけを確認する。検査値が動かなくても、行動が一つ残っていれば前進だと伝える。それでも、次の受診までの3か月は埋まりません。診察室の外で患者さんの行動が続く仕組みを持てるかどうか。そこが、これからの生活習慣病外来の分かれ目だと感じています」

指導の次の一手を持っているクリニック、持っていないクリニック

診療報酬でも特定保健指導でも評価は数字に寄ってきている一方で、患者さんのおよそ4割は必要性をわかっていながら行動の手前で止まっています。その理由は意志の強さではなく、生活の組み立てと実行のしやすさにあると指摘されています。

こうした状況は、クリニックごとに外来の差別化を行うチャンスでもあります。指導しても数値が動かない患者さんに対して、次に出せる選択肢を持っているクリニックと、持っていないクリニックの差です。

先ほど挙げた保険診療内の手を使い切ってもなお数値が動かない患者さんは残ります。そこで選択肢がなくなると、外来でできるのは「同じ指導をもう一度、もっと強く伝える」ことだけになります。これは医師にとっても患者さんにとっても負担が大きく、しかも結果につながりにくい方法です。それどころか、毎回同じことを言われる患者さんは次第に受診そのものが気重になり、通院が途切れるリスクも出てくるでしょう。

次の予約までの空白も、あまり意識されていない問題です。指導は診察室での数分で終わりますが、次の受診までの3か月は患者さんが一人で過ごします。この期間に医師が関与できる手段を、多くのクリニックは持っていません。

では、肥満症の薬物療法はどうでしょうか。

冒頭で触れたとおり、対象になるのはBMI 27以上で肥満に関連する健康障害を2つ以上持つ、またはBMI 35以上といった条件を満たし、かつ高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかを持つ患者さんです。処方する側にも施設基準があり、内科系の診療科を標榜していることに加えて、日本循環器学会・日本糖尿病学会・日本内分泌学会のいずれかによる教育研修施設の認定、これらの学会の専門医である常勤医師、常勤の管理栄養士による栄養指導体制が求められます。

さらに最適使用推進ガイドラインでは、適切な食事療法・運動療法を「本剤を投与する施設において」6か月以上行い、その間2か月に1回以上、管理栄養士による栄養指導を受けたうえで十分な効果が得られない患者さん、と定められています。つまり薬は指導の代替ではなく、追加です。処方できた場合でも、食事と運動の話は終わりません。

指導だけでは届かない。薬は使えないか、使えても指導の課題は残る。問われているのは、この「あいだ」に何を置くかです。

指導をさらに強めることでもなく、薬を出すことでもない。患者さんが次の受診までの3か月を、一人でも続けられる形にできるか。選択肢をひとつ持っているだけで、診察室での会話は「頑張ってください」から「これを試してみましょうか」に変わります。数字で結果を問われる時代において、クリニックの差はおそらくそこに出ます。

まとめ

  • 診療報酬でも特定保健指導でも、評価は検査値や腹囲・体重といった数字に寄ってきている

  • 一方で特定保健指導の実施率は27.6%(2023年度)にとどまり、患者さんのおよそ4割は必要性をわかっていながら行動の手前で止まっている

  • その要因は意志の強さではなく、生活の組み立てと実行のしやすさにある

  • 肥満症を効能とする注射薬(セマグルチド、チルゼパチド)は登場したが、患者さん側の条件と施設側の要件があり、使える場面は限られる

  • 保険診療の枠内でも、外来栄養食事指導料の外部委託、高血圧治療補助アプリ、糖尿病透析予防指導管理料といった手はある。ただしいずれも体制か期間の制約がある

  • 指導と薬物療法の「あいだ」に置ける選択肢を持てるかどうかが、これからの外来の差になる

監修者

五藤 良将(ごとう よしまさ)

医療法人社団五良会 竹内内科小児科医院 院長/医療法人社団五良会 理事長

防衛医科大学校医学部卒業。自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどでの勤務を経て、2019年9月に継承開業。専門は総合内科で、糖尿病、AGEs、動脈硬化を研究分野とする。著書に『内臓脂肪 中性脂肪 コレステロールがみるみる落ちる 血液と体の「あぶら」を落とすスープ』(アスコム、2024年)。

所属学会・資格

日本内科学会 認定医/日本抗加齢医学会 抗加齢医学専門医/日本美容内科学会 評議員/日本旅行医学会 認定医/日本温泉気候物理医学会 温泉療法専門医・温泉療法医/日本医師会 産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/日本糖尿病協会 登録医/難病指定医

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参考文献

  • 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00045.html

  • 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html

  • 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要(外来医療の機能分化・強化等)」 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001681336.pdf

  • 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定 関係通知(別添1 医科診療報酬点数表に関する事項)」 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001732089.pdf

  • 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定 関係通知(特掲診療料の施設基準等)」 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001732104.pdf

  • 厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001231390.pdf

  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「行動変容ステージモデル」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-07-001.html

  • 厚生労働省「2023年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況について」 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001492019.pdf

  • 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf

  • 厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001603146.pdf

  • 厚生労働省「最適使用推進ガイドライン セマグルチド(遺伝子組換え)~肥満症~」令和5年11月(令和8年6月改訂) https://www.pmda.go.jp/files/000281140.pdf

  • 厚生労働省「最適使用推進ガイドライン チルゼパチド ~肥満症~」令和7年3月(令和8年5月改訂) https://www.pmda.go.jp/files/000280607.pdf